平成23年9月16日 作家 乙武 洋匡氏
平成23年10月10日までネット公開 - NHK ONLINE
「震災で感じた“僕のできること”」
作家 乙武 洋匡氏
乙武 洋匡(おとたけ ひろただ) - Wikipedia
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「五体不満足」の著者として知られる作家の乙武洋匡氏のインタビューを聴きました。
東日本大震災の際、東京のビル内で地震に遭遇し友人たちに抱えられて非難することとなった経験や、その後、友人たちが被災地で自らの肉体で救援活動を行いその報告をtwitter等を通して聞かされていた間、自分が同じように活動に参加できないことに悔しさを覚えていたことなど、それまでの乙武氏の活動方針には見られなかった後ろ向きな感情についても触れられていたのが今回のインタビューの特筆すべき点でした。
どんなに強い人間でも、ふとしたことで弱気な感情が頭をもたげ始めることは必ずあるものですが、これまでの乙武氏はそのような弱さを正面から弾き飛ばしてしまうような前向きさが前面に出されることが多かったにも関わらず、今年の7月に出版された著書では弱者としての障害者である自分について再認識する姿が描かれています。
この心境の変化には、震災後の葛藤とその答えとして被災地へ赴き、現地の人々と交流した際の体験が大きく関係しています。
子供の頃から、当たり前のことをするだけで人から褒められるということに対し、その前提にある、障害者を無力なものとみなす視線を感じ取り、持ち前の負けず嫌いから常に人並み以上であろうと気負い続けてきたといいます。
そんな乙武氏が、石巻市の小学校や福島の障害者支援センターの人々と交流する中で、その強さ・前向きさに触れることで逆に励まされ勇気をもらうという感動体験をすることで、障害者として生きてきた自分と被災者との間のある共通点に気付きます。
「彼らは、僕らを感動させようとやっているわけでは決してなくて、自分の為、自分の家族の為、自分の街の為にもう1度がんばろうと思ってそれを見た僕らが勝手に心を動かされている。皆さんが僕を見て『感動しました』とか『すごいですね』って言って下さっていたのはこういう気持ちだったのかもしれないなということに初めて気が付くことができた。」
それまで乙武氏に接する側が受け取っていたであろう感動を、被災者を支援する立場から自分自身が追体験することで、乙武氏が"感動を受け取る側"から感じ取るものを同情や憐憫のような否定的なものから共感や尊敬のような肯定的なものへと変化させることができたのです。
5月の上旬に参加した始球式では、ピッチングマシンの使用などの案が出されたのに対し、
自分で球を投げさせてくださいと願い出ます。
「ここで優先すべきは僕の感情ではなくて、それを被災地の方々がどう受け取ってくださるか」
そんな気持ちになれたことに自分自身でも驚いたと言います。この始球式の映像はネット上でも視聴することができますが、そこには気負いなく「自分にできること」をやり遂げている乙武氏の姿があります。
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乙武氏は冒頭でも、震災の記憶が薄れていくのは気持ちの整理がつき始める面もあり必ずしも罪悪感を持つ必要はないと主張し、支援する側の感じる無力感や虚しさに対して配慮する発言が多く聞かれましたが、こうした態度からはご自身の境遇や震災後の体験に裏打ちされた独自の信念や繊細さが感じられます。
私もこの機会に、焦らず気負わず「自分にできること」を再確認してみたいと思いました。
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